7月初旬、湿度の高さに冷房の乾燥が重なって、家族の咳が長引いていました。痰が絡むような、少し苦しそうな咳。病院に行くほどではないけれど、見ている私の方が心配になってしまう。そんなとき、ふと思い出したのが「タイム」というハーブでした。
タイム—古くから“勇気の象徴”とされたハーブ
タイムは、地中海沿岸を原産とするシソ科のハーブで、古代から「勇気の象徴」とされてきた植物です。中世ヨーロッパでは、戦場へ向かう兵士にタイムの香りをまとわせることで、勇気を引き出すお守りのような役割を果たしていたそうです。
この植物がもつ最大の魅力は、その優れた抗菌力と呼吸器への作用。アピゲニンやチモニンなどの植物性成分(フラボノイド類)、サポニンといった成分が、咳を和らげ、痰を出しやすくする働きがあります。
実際、17世紀の英国ハーバリスト・ニコラス・カルペッパーも、タイムの煎じ液が百日咳や胃痛に役立つと記しています。ヨーロッパの伝統医学の中でも、タイムは呼吸器や消化器のトラブルに重宝されてきたことがうかがえます。
冷房による咳に、タイムティーを
呼吸器にやさしいハーブを探していた私は、タイムにたどり着きました。早速、乾燥したハーブを取り寄せ、朝と晩に家族に飲んでもらうことに。数日後、「飲むとすごく楽になる」と言われて、少し驚きました。
たしかにタイムは苦みが強めのハーブなので、最初は飲みにくさがあるかもしれません。でも私は、リコリスとレモングラスをブレンドして、飲みやすい風味に調整。リコリス(甘草)にも去痰作用があり、レモングラスの爽やかな香りがタイムの野性的な香りをやわらげてくれました。
ティーポットにすべてを入れて、熱湯を注ぐ。しばらく蒸らしていると、ほんのりスパイシーで清涼感のある香りが広がり、私自身も自然と深呼吸したくなるような心地に。
精油との違い—ハーブティーだからこそのやさしさ
タイムには、チモールやカルバクロールといった強力な精油成分が含まれています。これらは強い抗菌作用を持つ反面、高濃度での使用や精油単体での摂取は、肝臓に負担をかける可能性も。
その点、乾燥ハーブを使ったハーブティーであれば、体にやさしく、安心して日常的に取り入れることができます。実際にドイツでは、小児科でもタイムティーが呼吸器ケアの一環として処方されているそうです。
ハーブの時間は、私自身を整える時間でもある
家族のために淹れたハーブティーですが、私にとっても、それは一杯のセルフケアになりました。
冷房の音が響く午後、蒸らしている時間の静けさに、ふと自分の呼吸を感じる。「忙しい」「疲れた」と言葉にする間もないまま過ぎていく日々の中で、植物の力に触れることで少し立ち止まることができる——そんな感覚がありました。
40代に入り、自分のための時間を少しずつ取り戻している今、こうした「暮らしの小さな処方箋」は、家族の健康だけでなく、私自身の整えにもつながっていると感じます。
暮らしの中にある、植物の知恵を味方に
タイムは、その高い抗菌力と呼吸器へのやさしい働きで、夏の不調を和らげる心強い味方になってくれました。古くからの知恵と植物の力を、今の暮らしに合わせて取り入れていくこと。これからも、そんな小さな実験を、私の「私時間」として大切にしていきたいと思います。