暮らしを整えることを大切にしながらも、ときにはちょっとした刺激や香りを楽しみたくなる日があります。そんなとき、私が手に取るのがアジアの調味料です。柚子胡椒、ナンプラー、ココナッツミルク、塩こうじ。たった一本、ひとさじで、台所に異国の風が吹く。週末のキッチンに少しの冒険心を持ち込む時間は、私にとっての「整うごほうび」になっています。
きっかけは、ひとつの発見でした。柚子胡椒が、バイマックルーの代わりになる。そこから、和とアジアが出会う食卓が広がっていきました。この記事では、炊飯器でつくるガオマンガイ、水も油も使わないグリーンカレー、ナンプラーの生春巻き、そして塩こうじとナンプラーの「ダブル発酵だれ」をご紹介します。どれも難しい技術はいらず、忙しい40代の暮らしの中でも無理なくつくれて、しっかり満足できるものばかりです。
柚子胡椒という発見
東南アジアの料理で、香りづけや臭み消しの役目を担うバイマックルー(コブミカンの葉)。独特の柑橘の香りは、グリーンカレーやトムヤム、サラダに欠かせませんが、日本では手に入りにくい素材です。
そこで活躍するのが、柚子胡椒です。柚子の皮と青唐辛子、塩でつくる日本ならではの調味料ですが、同じ柑橘の爽やかな香りを持っているので、意外にもエスニック料理のアクセントにぴったりなのです。私がこれに気づいたのは、あとでご紹介するグリーンカレーをつくっていたときでした。仕上げにほんの少し柚子胡椒を加えたら、まるでバイマックルーを入れたような、爽やかな柑橘の香りが広がったのです。和の調味料が、アジアの風を運んでくる。この発見に、とてもわくわくしました。
グリーンカレーの仕上げに少し加えると、辛さと柑橘の香りが重なって、味に深みが出ます。ナンプラーやライムの汁と合わせれば、ヤムウンセン風のサラダの、さっぱりピリ辛なドレッシングに。鶏肉や野菜のスープにレモングラスと一緒に入れると、すっきりした香りに仕上がります。ビーフン炒めに少し使うと、和とアジアが重なり合う、複雑な味わいが広がります。
さらに本格的な香りがほしいときは、柚子胡椒にレモングラスを合わせたり、すだちやかぼす、ライムの皮を加えたり、乾燥させたみかんの皮(陳皮)を合わせたりするのもおすすめです。スープや煮込みに加えると、よりバイマックルーに近い、深みのある香りが楽しめます。ただし、柚子胡椒には塩分が含まれているので、塩やナンプラーとのバランスを見ながら、少しずつ加えるのがコツです。
炊飯器でつくる、ガオマンガイ
ガオマンガイ(海南鶏飯)は、東南アジアで人気の、鶏肉のうま味がたっぷり染みた炊き込みごはんです。ナンプラーやレモンの爽やかな香りがアクセントになります。難しそうに見えますが、実は炊飯器でつくれる、とても簡単なメニューです。
材料(2〜3人分)
- 鶏もも肉(大きめ) 2枚
- 米 2合
- 水 2合の目盛りから大さじ3減らす
- 酒 大さじ1
- ごま油 大さじ1
- オイスターソース 大さじ1
- にら(細かく刻む) 適量
- おろし生姜 小さじ1
- おろしにんにく 小さじ1
- ナンプラー 小さじ1
- レモンの薄切り 数枚
作り方
- お米を洗って炊飯器に入れ、水を2合の目盛りから大さじ3ほど減らして加える
- 酒、ごま油、オイスターソース、生姜、にんにくを加え、にらを散らす
- 鶏もも肉をどんとのせ、レモンの薄切りものせる
- 仕上げにナンプラーを回しかけて、スイッチを押す
- 炊き上がったら鶏肉を取り出し、中まで火が通っているか確かめてから、ひと口大に切る
これだけで、鶏のうま味がじんわり染み込んだごはんが炊き上がります。切る材料も少なく、忙しいときでもストレスなくつくれるのがうれしいところです。きゅうりの薄切りやトマトの角切り、揚げなす(市販の冷凍のものを使えば手間いらず)を添えると、彩りも栄養のバランスもよくなります。
40代は、何かと忙しく、料理に時間をかけにくい時期です。それでも、栄養とおいしさはあきらめたくない。ガオマンガイは、そんな願いにぴったりです。お気に入りの音楽を流しながら炊飯器に材料をセットして、あとは自由な時間を楽しむ。そんな余裕のある週末こそ、心地よい私時間だと思います。
水も油も使わない、グリーンカレー
40代を過ぎて、体の変化や健康への意識が自然と高まってきました。毎日の食事は、心と体を整える大切な時間。だからこそ、添加物はできるだけ控え、安心して食べられるものを選びたいと思っています。
市販のココナッツミルクの缶には、増粘剤や乳化剤などが使われているものもあります。また、缶の内側に使われることがあるビスフェノールA(BPA)についても、さまざまな議論があります。そこで私は、有機のココナッツだけでつくられた、無添加で、BPAを使っていない缶のものを選ぶようにしています。これはあくまで私の選び方で、市販品が危険という意味ではありません。何を選ぶかは、それぞれの暮らしに合わせて決めていただければと思います。
材料(2〜3人分)
- 鶏もも肉(茹でたもの) 200g
- なす 3本
- ピーマン 3個
- 有機ココナッツミルク 1缶(約400ml)
- 辛くないカレー粉(スティックタイプ) 2袋
- 柚子胡椒 小さじ2
- ナンプラー 小さじ1〜2(お好みで)
作り方
- 鍋に茹でた鶏肉とココナッツミルクを入れて、ひと煮立ちさせる
- カレー粉と柚子胡椒を加えて、よく混ぜる
- なすを加えて、やわらかくなるまで煮込む
- ピーマンを入れて、さっとひと煮立ちさせる
- 最後にナンプラーで味をととのえて、できあがり
油も水も使わず、ココナッツミルクだけで煮込むので、素材の味がそのまま生きます。そして、ここで柚子胡椒が大きな役目を果たします。辛さを足すだけでなく、柑橘の香りが加わることで、味が一気にアジアらしくなるのです。バイマックルーの代わりになるという発見は、まさにこのカレーから生まれました。辛くないカレー粉を使っているので、辛いものが苦手な方でも大丈夫。それでいて、香りはしっかり本格的です。
ナンプラーの、夏の献立
ナンプラーは、醤油や味噌とは違う、鼻に抜ける異国の香りを料理に運んでくれます。少しの量でもしっかり存在感があり、夏の軽やかな気分を引き立ててくれる。南国の風が通り抜けるようなこの香りが、私の「整う」習慣の核になっています。
夏の定番は、エビの生春巻きです。ゆでたエビに、大葉、ゆでたもやし、小ねぎ、みょうが、春雨を巻いて、自家製のナンプラーとレモンのたれでさっぱりと。辛みがほしい日は、ラー油をひと回しします。ひと口食べると、香りと酸味と辛みがひとつになって、胃も心もふっとゆるみます。余った具材は、翌日の炒めものに。無駄なく使い切れるところにも、ちょうどいいシンプルさがあります。
茹でた鶏肉と大葉、錦糸卵を巻いた生春巻きも、ナンプラーのたれさえあれば、あっという間にアジア風に。満足感はあるのに胃にやさしく、すっきりした食感と深いうま味が、週末の私時間を豊かにしてくれます。
ナンプラーは、たくさん入れる必要はありません。ほんの数滴で、アジアらしさが生まれます。塩分が強いので、レモンやみょうがのような酸味や香味野菜を合わせると、軽やかにまとまります。冷蔵庫に一本あるだけで、「今日はどうしようかな」という日にも、すっと手が伸びる存在です。
塩こうじとナンプラーの、ダブル発酵だれ
40代に入ってから、発酵調味料の魅力に気づくようになりました。なかでも最近よく使うのが、塩こうじとナンプラーを合わせた「ダブル発酵だれ」です。どちらもそれぞれの土地で育まれてきた伝統の調味料ですが、一緒に使うと、驚くほど深い味わいが生まれます。
塩こうじは、米麹と塩と水を発酵させた、日本の調味料です。たんぱく質を分解する酵素を含み、肉や魚をやわらかくして、うま味を引き出すとされています。味わいは、やさしく、ほんのり甘い。ナンプラーは、魚と塩をじっくり発酵させた、東南アジアの魚醤です。グルタミン酸などのうま味成分が豊富で、少しの量で料理の味をぐっと引き締めてくれます。
この2つを、1対1で混ぜるだけ。まろやかさと香ばしさ、和とアジアが合わさった、アジア風のうま味塩だれのような味になります。鶏肉に半日漬け込んで焼けば、やわらかくジューシーに。焼きそばや炒飯の味つけにひとさじ加えれば、エスニックと和のあいだのような味に。オイルと混ぜれば、蒸し野菜のドレッシングになりますし、豆腐のたれや、冷やしうどんのつゆにもぴったりです。味がしっかりしているので、少しの量で満足感がありますが、塩分も高めなので、少しずつ加えながら調整してください。
香りで、小さな旅を
柚子胡椒、ナンプラー、ココナッツミルク、塩こうじ。どれも、特別な食材ではありません。でも、組み合わせ方ひとつで、台所が異国の風景に変わります。
40代になって、体にやさしく整える暮らしを意識するようになりました。それでも食卓には、遊び心や、香りで旅をするような気分も大切だと感じています。週末の私時間に、器に盛ったひと皿で、香りの小さな旅を。炊飯器のスイッチを押して、あとは自由な時間を過ごす。その余裕こそが、40代の心地よい暮らしなのだと思います。
※鶏肉は、中までしっかり火が通っていることを確かめてから食べてください。エビやナンプラー(魚)にアレルギーのある方は、材料をご確認ください。
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