「“これから”を見据える介護と暮らし」シリーズ 第1回:地方移住の理想と現実|介護タクシーから見える「暮らしの支え」の地域差

①<介護>

今回を含めて3回にわたり、介護と暮らしをめぐって、最近介護の現場で働く方々と話す中で感じたこと、気づいたことをお伝えしていきたいと思います。

「私らしく暮らす」を選ぶ前に考えたい、介護と移動のインフラ

「自然に囲まれて暮らしたい」「ゆったりと時間を過ごしたい」。
そんな想いで地方移住を考える40代の方も増えています。
でも、“心地よい暮らし”を叶えるためには、理想だけでなく「暮らし続けるための仕組み」にも目を向ける必要があります。

とくに見落とされがちなのが、介護や通院に関わる移動手段。
車がないと生活が難しい地域も多く、万が一、自分や家族が介護を必要とする時に「どうやって通院するか」を考えておくことが、地方移住の現実的なポイントになります。

介護タクシーは都市部に集中している現実

一般のタクシー事業者は、10万人あたりでは高知県・島根県・徳島県など地方が上位に入ります。
ところが、介護タクシーに関しては事情がまったく異なります。

介護タクシー事業者が多い都道府県は、以下の通りです。

東京都:事業者数・車両数ともに全国トップ。

大阪府:東京に次いで多く、都市部中心に展開。

愛知県・神奈川県:介護・福祉タクシーの車両台数も多い。

つまり、介護タクシーは都市部に集中し、地方では不足している傾向が強いのです。
人口密度が高く、利用者が多い地域に事業者が集まる一方で、地方では採算面から参入が難しく、必要な時に呼べないケースも。

「移住先で介護が必要になった時に、誰がどう支えてくれるか」―。
この“支えの網”が地域によって大きく異なることを知っておくことは、安心して暮らすための第一歩になります。

医療・介護インフラを見極める5つの視点

地方の暮らしは、自然や人の温かさなど、心を満たしてくれる魅力にあふれています。
でも同時に、医療・介護の距離が、暮らしの安心度を左右することも確かです。

移住を考える前に、次の5つをチェックしてみましょう。

① 最寄りの病院・クリニックまでの距離と移動手段(自家用車がない場合も想定)

② 介護タクシーや福祉輸送サービスの事業者が地域にあるか

③ デイサービスや訪問介護などの支援体制が整っているか

④ 自治体の「高齢者支援」や「地域包括ケア」への取り組み状況

⑤ 移動支援や買い物支援など、地域コミュニティの活動状況

これらを調べておくだけで、「住んでから困るリスク」を大きく減らすことができます。
地方移住は“癒し”と“支え”の両輪で成り立つ―そう考えるだけで、選び方がぐっと現実的になります。

「豊かに暮らす」と「安心して暮らす」は、同じ方向にある

40代からの暮らしは、体や家族の変化を感じはじめる時期でもあります。
だからこそ、自然の豊かさだけでなく、“支えるしくみ”の豊かさにも目を向けたい。

私たちが本当に求めているのは、「自然の中で穏やかに暮らす」だけではなく、
「いざという時も、安心して暮らし続けられる」ことではないでしょうか。

移住を考えるとき、「医療・介護・移動」のインフラを確認することは、
“暮らしを整える”という視点そのもの。
理想を描くことと同じくらい、支えを知ることが、これからの「私らしい生き方」を守ってくれます。

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