泉質で選ぶ温泉習慣 完全版 ― 9つの泉質図鑑。40代の心と体がよろこぶ、今日の一湯

③【美容・健康】

40代に入って、体と心の疲れの残り方が変わってきました。昔は一晩眠れば回復できていたのに、今は肩こりが続いたり、気分の切り替えに時間がかかったり。頑張るだけでは整わない年齢に、ようやく向き合えるようになった気がします。そんなとき、思っていた以上に回復を感じたのが、温泉でした。

これまで温泉といえば、気持ちいいから、旅行のついでに、という選び方をしていました。でも、泉質にはそれぞれ違う性質があり、体への働きかけ方も違うと知ってから、温泉との付き合い方が変わりました。冷えているとき、肌がゆらいでいるとき、こわばりが抜けないとき、深い疲れを感じるとき。今日の自分に合う湯を選べるようになると、温泉はぐっと身近な習慣になります。

日本の温泉文化は、海外からも注目されています。温かさで体をほぐし、浮力で筋肉の緊張をゆるめ、泉質ごとの成分に触れ、自然の景色や空気に包まれる。そのすべてをひっくるめて、日本ならではの心身の整え方として紹介されるようになってきました。

温泉のうち、体にいいとされる成分を一定以上含むものは「療養泉」と呼ばれ、環境省の決まりでは10種類の泉質に分けられています。この記事では、そのうち、含よう素泉をのぞく9つの泉質を、40代の心と体に寄り添う視点でまとめました。

※効能の感じ方には個人差があります。持病のある方、妊娠中の方、体調のすぐれない日の入浴は無理をせず、気になる場合は医師に相談してください。温泉は治療ではなく、暮らしを整える習慣のひとつとして楽しんでいただければと思います。

泉質ひとことで言うとこんな日に
単純温泉何も足さない、やさしい湯心をほどきたい
塩化物泉熱を逃さない、守る湯冷えがつらい
炭酸水素塩泉落とすことで整う、美肌の湯肌がごわつく
硫酸塩泉傷の湯と呼ばれてきた湯回復が遅い
硫黄泉こわばりをほどく、香りの湯体が硬い
含鉄泉空気に触れて赤くなる湯体が重い
二酸化炭素泉ぬるめでも温まる、泡の湯肩の力を抜きたい
酸性泉肌をリセットする、清涼の湯肌をさっぱりさせたい
放射能泉(ラジウム泉)静かに温まる湯深い疲れがある

単純温泉 ― 何も足さない湯がくれる、余白時間

単純温泉は、温泉の成分の量が比較的少ない湯です。刺激がほとんどなく、肌の敏感な方でも入りやすいので、子どもから高齢の方まで幅広く親しまれています。単純という名前から地味な印象を受けるかもしれませんが、そっと寄り添われるような、やさしいお湯です。

湯に浸かって最初に感じるのは、肩の力がすっと抜ける感覚です。じわっと広がる温かさに包まれながら、呼吸が深くなり、気持ちが落ち着いていきます。40代は自律神経のバランスがゆらぎやすい時期ですが、単純温泉のやさしい温かさは、その乱れを丁寧に戻してくれるように感じます。湯上がりにぽかぽかした体で、「今日の私、よく頑張ったな」と思える瞬間が増えていきます。

日本では、温泉療法を専門とする医師たちによる研究も進み、温泉入浴が疲れや眠り、気分によい影響を与えるという報告もあります。気持ちいいだけでなく、心身を整える根拠がある、というのは心強いことです。

代表的な単純温泉には、下呂温泉(岐阜)、道後温泉(愛媛)、鬼怒川温泉(栃木)などがあります。強い刺激より、やさしい整えのほうが効く。40代になって、そんな変化を感じることがあります。何も主張しないのに、心をほどいてくれる。単純温泉は、そのやさしさの象徴のような泉質です。

塩化物泉 ― 冷えに寄り添う、守る湯

塩化物泉は、ナトリウムなどの塩分を多く含む温泉です。入浴すると、肌の表面に塩の成分がつき、汗が蒸発しにくくなるため、湯上がりも温かさが続きやすいといわれます。冷えやすい手足が温かいまま、外の空気に触れても冷えにくい。この保温力の高さが、冷えを感じやすい40代にとって心強いところです。

塩化物泉に入っていちばん印象に残るのは、温め直さなくていい、という安心感です。冷えによるだるさがやわらぎ、夜まで温かさが続く。冷えてから対処するのではなく、冷えにくい状態をつくってくれる湯です。温めることについては、入浴で体が温まると、細胞を守る働きをもつ「ヒートショックプロテイン」というたんぱく質が増える、という研究もあります。温めることは、頑張るケアではなく、整った状態を保つための土台なのだと感じます。

代表的な塩化物泉には、熱海温泉(静岡)、城崎温泉(兵庫)などがあります。塩分を含む泉質なので、塩分を控えるよう言われている方は、事前に医師に相談してください。

炭酸水素塩泉 ― 落とすことで整う、美肌の湯

40代に入ってから、肌の変化は静かに、でも確実に訪れました。乾燥しているわけではないのに、くすんで見える。しっかり保湿しているのに、触れると少し硬い。そんな肌の曲がり角に心地よく感じたのが、炭酸水素塩泉でした。

炭酸水素塩泉は、重曹の成分を含む温泉です。肌の表面の皮脂や古い角質をやわらかくして、洗い流しやすくする性質があり、湯上がりの肌がつるりと感じられることから、「美肌の湯」と呼ばれてきました。足すケアではなく、落とすことで整える。40代の肌には、とても理にかなった考え方だと思います。

入った瞬間の強さはありません。でも湯から上がって肌をなでたとき、引っかかりが減っていることに気づきます。何かを頑張っていないのに、整っていく。落としすぎず、守りすぎない、そのちょうどよさが心地よい湯です。皮脂が落ちやすいぶん、湯上がりには保湿をしておくと安心です。

代表的な炭酸水素塩泉には、嬉野温泉(佐賀)、龍神温泉(和歌山)などがあります。どちらも、派手さはないけれど、あとからじんわり効いてくる心地よさがあります。

硫酸塩泉 ― ゆっくり回復したい日の、傷の湯

40代に入ってから、疲れ方が変わったと感じることが増えました。一晩眠れば戻っていた疲れが、数日、体の奥に残っているような感覚。大きな不調ではないけれど、回復に時間がかかる。そんなときに合うのが、硫酸塩泉です。

硫酸塩泉は、硫酸イオンを多く含む温泉です。古くから「傷の湯」と呼ばれ、肌をいたわる湯として親しまれてきました。温まることで血のめぐりがよくなり、冷えやこわばりがやわらぐ感覚があります。攻めのケアではなく、戻すための湯といえるかもしれません。

硫酸塩泉の印象は、とても静かです。入浴後、肌がひりつかず、体の芯がじんわり温かい。翌日、体が重くならない。治そうとしなくても、楽になっている。劇的な変化はないけれど、焦らず、比べず、体が自分のペースを取り戻していく余白をくれる湯です。

代表的な硫酸塩泉には、伊香保温泉の「黄金の湯」(群馬)や、四万温泉(群馬)などがあります。

硫黄泉 ― こわばりをほどく、香りの湯

40代に入ってから、疲れより先に気になるようになったのが、体のこわばりでした。肩や首、股関節。冷えやすく、動かしはじめが重たい感覚。そんなとき、久しぶりに入った硫黄泉で、「あ、ゆるんだ」と感じる瞬間がありました。

硫黄泉は、硫黄の成分を含む温泉です。温まることで血のめぐりがよくなり、筋肉のこわばりがゆるみやすいとされ、昔から冷えに悩む人に親しまれてきました。肌の古い角質をやわらかくするともいわれ、「美肌の湯」として知られる温泉地もあります。

最初は気になる硫黄の香りも、しばらくすると、深く呼吸したくなる香りに変わっていきます。香りと一緒に、緊張や考えごとまで、ふっとゆるんでいく。体だけでなく、気持ちの力も抜いてくれる湯です。香りと湯けむりと自然。五感で感じるこの体験が、海外からの旅行者にも人気がある理由なのだと思います。

代表的な硫黄泉には、草津温泉(群馬)、万座温泉(群馬)、蔵王温泉(山形)、別府温泉(大分)などがあります。硫黄泉は刺激が比較的強いので、肌の敏感な方や皮膚に病気のある方は、短い時間から試すか、事前に医師に相談してください。銀のアクセサリーが変色することがあるので、外してから入りましょう。

含鉄泉 ― 空気に触れて、赤くなる湯

40代に入ると、朝起きたときのだるさや、肩や腰の重さを感じることが増えてきます。大きな不調ではないけれど、体のめぐりが滞っているのを感じる瞬間です。

含鉄泉は、その名のとおり鉄分を含む温泉です。湧き出たばかりのときは透明でも、空気に触れると鉄が酸化して、赤褐色に変わるのが特徴です。よく温まり、湯冷めしにくい湯として親しまれてきました。体の芯からじんわり温まり、湯上がりに肩や腰が軽くなるように感じます。

ただし、温泉に入って貧血がよくなる、というものではありません。貧血が気になる場合は、必ず医療機関で検査を受けてください。含鉄泉は、あくまでめぐりを感じる温泉の体験として楽しんでください。

代表的な含鉄泉には、有馬温泉の「金泉」(兵庫)があります。赤褐色の湯の色に、まず驚かされる湯です。

二酸化炭素泉 ― ぬるめでも温まる、泡の湯

40代に入ると、肩や首の緊張が抜けにくく、手足の冷えが気になり、夕方になるとどっと疲れる、という日が増えてきます。体はがんばっているのに、めぐりが追いつかない。そんなとき、細かな泡に包まれる二酸化炭素泉に入ると、体の奥がふわっとゆるむのを感じます。

二酸化炭素泉(炭酸泉)は、お湯に炭酸ガスが溶け込んだ温泉です。肌に小さな泡がまとわりつき、皮膚から吸収された炭酸ガスが血管を広げて、血のめぐりをよくするといわれています。湧き出る温度がぬるめのことが多いのですが、ぬるいお湯でも体が温まりやすいのが特徴です。長湯しなくても、芯から温まる感覚があります。

炭酸泉は、ヨーロッパでも古くから療養に使われてきました。強く温めるのではなく、内側から巡らせる。攻めるケアではなく、緊張を手放すケア。それが、40代の体にはしっくりきます。湯上がりもぽかぽかが続き、呼吸が深くなって、考えすぎていた頭が静まっていきます。

代表的な二酸化炭素泉には、長湯温泉(大分)、有馬温泉の「銀泉」(兵庫)、湯屋温泉(岐阜)、七里田温泉(大分)などがあります。

酸性泉 ― 肌をリセットする、清涼の湯

40代に入ると、急にできる大人のニキビや、なんとなく続くざらつきなど、肌のゆらぎを感じる日が増えてきます。そんなとき、ぴりっとした刺激とともに肌がきゅっと引き締まる感覚をくれるのが、酸性泉です。

酸性泉は、強い酸性を示す温泉です。殺菌の力が強く、古くから「皮膚の湯」と呼ばれてきました。角質をやわらかくして、肌をさっぱり整えるとされています。肌のざらつきが気になる日に入ると、翌朝の肌がなめらかに感じられることがあります。

酸性泉は、9つの泉質の中でも特に刺激が強い泉質です。長湯は避けて、短い時間から様子を見ながら入ってください。湯上がりは、真水のシャワーで肌を流し、しっかり保湿をしましょう。傷や炎症のあるところには使わず、肌の敏感な方や皮膚に病気のある方は、事前に医師に相談してください。目に入らないようにも気をつけてください。

代表的な酸性泉には、草津温泉(群馬)、玉川温泉(秋田)、蔵王温泉(山形)などがあります。これまでの泉質が、ゆるめる、巡らせる湯だとしたら、酸性泉はリセットする湯です。足すより、手放すことが整いにつながる40代に、肌も心もいったん切り替える時間をくれます。

放射能泉(ラジウム泉) ― 静かに温まる湯

しっかり寝ても疲れが残る、関節がこわばる。表面ではなく、もっと奥のほうにある深い疲れを感じたときに合うのが、ラジウム泉です。目に見えないけれど確かに感じる温かさで、静かに内側から整っていくような湯です。

ラジウム泉は、正式には放射能泉と呼ばれ、ごく微量のラドンを含む温泉です。名前に驚くかもしれませんが、ラドンは自然界にもともとある成分で、温泉に含まれる量はごくわずかです。ラドンは気体なので、お湯に浸かるだけでなく、湯けむりと一緒に呼吸からも取り込まれるといわれます。古くから、関節の痛みや冷えの湯治に使われてきました。

ラジウム泉については、ごく微量の刺激が体の守る力を引き出す、という「ホルミシス効果」の考え方が知られています。ただし、この考え方は専門家のあいだでも見解が分かれていて、確かめられた医学の知識ではありません。効果を期待して長く入るのではなく、温泉地の案内に従い、無理のない範囲で楽しむことが大切です。

ぬるめのお湯に、静かに10分ほど。熱すぎない、長湯しすぎないことがポイントです。ゆったり入った日の夜は、呼吸が深く、眠りも深くなるように感じます。代表的な放射能泉には、三朝温泉(鳥取)、増富温泉(山梨)、池田ラジウム鉱泉(岐阜)などがあります。どこも静かな山あいにあり、湯治という言葉が似合う場所です。

泉質で選ぶことは、体の声を聞くこと

やさしく整える単純温泉。守る塩化物泉。落として整える炭酸水素塩泉。傷の湯と呼ばれてきた硫酸塩泉。ほどく硫黄泉。赤く色づく含鉄泉。ぬるめで温める二酸化炭素泉。リセットする酸性泉。そして、静かに温まる放射能泉。並べてみると、それぞれに違う個性があります。

泉質で温泉を選ぶことは、自分の体の声を聞くことなのだと思います。今日は冷えているから塩化物泉を、肌がゆらいでいるから炭酸水素塩泉を、深く疲れているから放射能泉を。そうやって選べるようになると、温泉は特別な旅から、暮らしの習慣に変わっていきます。

40代は、足りないものを探すより、今ある力を整える時期です。頑張らなくていい。でも、自分をいたわることは後回しにしない。疲れを抱えたまま走り続けるのではなく、ときどき立ち止まって、深く回復する。今日のあなたの体は、どの湯を求めているでしょうか。その問いかけそのものが、もう整いの始まりなのかもしれません。

※温泉の効能の感じ方には個人差があります。持病のある方、妊娠中の方、体調のすぐれない日の入浴は無理をせず、医師に相談してください。特に酸性泉や硫黄泉は刺激が強いため、肌の敏感な方や皮膚に病気のある方は気をつけてください。温泉は治療を目的とするものではなく、暮らしを整える習慣のひとつとして楽しんでください。泉質は源泉や施設によって異なり、営業状況も変わることがあるので、お出かけ前に公式サイトで確かめてください。

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