「左ひざが少し痛くて…」
そんなふうに伝えた私に、先生は穏やかにうなずき、
ベッドにうつ伏せになるよう促しました。
てっきり、ひざの周りに鍼を打つものと思っていたのですが、
先生の手が向かったのは、左の“ひじ”でした。
「え?」と思わず心の中で首をかしげる私。
それでも先生は迷いなく、細い鍼を左ひじにすっと刺し、
そのまま静かに、もう一本。
「このまま20分ほど、リラックスしていてくださいね」
そう声をかけられた私は、少し不思議な気持ちを抱きながら、
目を閉じてゆっくりと呼吸を整えていきました。
ひざを整えるのに、なぜ“ひじ”なのか?
ベッドに横たわりながらも、頭の中では疑問が消えませんでした。
「ひざが痛いのに、なんでひじに?」と。
でも、刺された鍼のまわりからじんわりと温かさが広がり、
次第に腕の奥から全身へ、深いリラックスが流れ込んでくるような心地に。
不思議と、その疑問もやわらいでいきました。
施術後、体を起こした瞬間に起きた“変化”
静かな時間が過ぎた頃。
タイマーが鳴るわけでもなく、先生が私の背に手を当て、
そっと「ゆっくり、仰向けになりましょうか」と声をかけてくれました。
ベッドの上でゆっくりと体を返し、仰向けになったその瞬間、
私は思わず「え?」と声を漏らしそうになりました。
左ひざが、軽い。痛くない――。
たった今まで気になっていた重さや鈍い痛みが、
スッと抜けたように感じられたのです。
「ひざ」と「ひじ」をつなぐ“経絡”という考え方
施術後、先生に尋ねてみました。
「どうして、ひざじゃなくて、ひじに鍼を刺したんですか?」
先生はこう答えてくれました。
「ひざとひじは、東洋医学で“同じ経絡”上にあるんですよ。
なかでも“曲池(きょくち)”というツボは、関節の炎症や痛みに効果的なんです」
経絡とは、東洋医学における「気(エネルギー)」が巡る通り道。
体をパーツで分けて見るのではなく、全体として“つながっている”と考えます。
その流れがどこかで滞ると、別の部位に痛みや不調が現れることもあるのです。
今回の施術は、そんな流れを整える“遠隔治療”というアプローチでした。
「治す」より、「整える」という選択肢
これまでにも、私は何度か鍼灸に助けられてきました。
● 季節の変わり目に体が重く感じたとき
● 胃の不快感が続いたときa
● 疲れ目で額が痛いとき
そのたびに、先生の鍼やお灸が、まるで体と心の奥から“整えて”くれるような感覚がありました。
東洋医学は「不調=悪者」ではなく、
「今ここに滞りがありますよ」と体が教えてくれているサインとして捉えます。
だからこそ、鍼灸の施術時間は、自分自身の内側と向き合う大切な時間になっていくのです。
遠くから届くやさしい整え方
今回の体験は、「ひざの痛みを整えるのに、ひじからアプローチする」という
一見不思議だけれど理にかなった、東洋医学ならではの整え方でした。
◎ 痛みのある場所だけを見ず、体全体の“流れ”を整える
◎ 表面的な症状ではなく、その“根っこ”に働きかける
◎ 鍼1本からでも、体がふっと軽くなる瞬間がある
体はパーツの集合体ではなく、ひとつながりの存在。
この考え方は、私にとって、これからの暮らしを支える心強い味方です。
これからも、自分の体の声にやさしく耳を傾けながら、
小さな違和感に気づいたときには、静かに“整える時間”を取り入れていこうと思います。
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