日本の神々と日常の知恵 Vol.11 ― 豊受大神に学ぶ|食と暮らしに宿る“感謝”と“つながり”の心

【日本の神々】シリーズ

日々ごはんを口にするたびに、ふと考えます。
「この一杯、この食材は、どこから来たのだろう?」と。

40代になり、体の変化を感じるようになった私にとって、“食べること”はただ満たすだけでなく、心と体を整える営みに変わってきました。

今回取り上げたいのは、伊勢神宮・外宮の主祭神として知られる 豊受大神(とようけのおおかみ)。
食物と暮らしの豊かさを司るこの神様の物語から、私たちが日々の台所・食卓をどう丁寧に扱うか、どう感謝を育むかを考えてみたいと思います。

豊受大神とは? ― 食物・穀物の神と暮らしを支える役割

豊受大神は、日本神話において「食物」「穀物」「御饌(みけ)」を司る女神です。穀物や五穀豊穣をつかさどる神として、また、衣食住を守る守護の神として古くから信仰されてきました。

伊勢神宮では、外宮の主祭神として祀られており、内宮の天照大神が“光・精神的な中心”であるのに対して、豊受大神は“暮らしの実用”を支えてくれる存在です。

その名の「豊受(とようけ)」は、「豊かな食を受け取る(=恵みを享受する)」という意味をもつそうです。食べることで、暮らしを支え、暮らしによって心を育てる。そんな循環の象徴ともいえる神様です。

神話の小さなエピソードが教えてくれること

豊受大神にまつわる物語の一つに、雄略天皇(第21代天皇)の夢があります。夢の中で天照大神が、内宮だけでは孤独であること、また食事を心安らかにとれないことを訴え、「外宮に豊受大神を供える神として迎えてほしい」と言ったという伝承です。こうして、京都(丹波国など)から豊受大神が伊勢の外宮に祀られることになりました。

この物語には、「ただ食べものを手に入れる」以上の意味があります。それは、人との関係性、食の安心と心の居場所、暮らしの基盤を整えること。豊受大神は、“物質的な豊かさだけでなく、心の豊かさ”も支えてくれる神だと感じます。

暮らしに「つながり」と「感謝」を取り戻す3つのヒント

豊受大神の教えを、私の暮らしに落とし込むなら、次の3つは取り入れやすい実践です。

食材のルーツを知る
 ・地元の農家さんの野菜を買ってみる
 ・産地を意識して選ぶことで、「誰かの手」が感じられる

台所仕事に感謝の時間を加える
 ・洗う、刻む、火を通す…その一つひとつを丁寧に
 ・調理中に「いただきます」の意味を思い出す

季節の恵みに寄り添う
 ・旬の食材をメニューに取り入れる
 ・保存食や漬物などの伝統的な方法で、季節を暮らしに重ねてみる

台所で育む“心地よい生き方”

40代の私にとって、台所はただの「作業場」ではなく、「心を整える場所」になっています。豊受大神の存在を意識することで、台所で過ごす時間が「当たり前ではない贈りもの」になるのです。

たとえば、買い物で迷ったときに「これも今の自分を育ててくれるかな?」と考えるようになったり、料理中に素材の香りや色合いに心が和む瞬間を味わったり。そういう心のゆとりが、暮らし全体の“質”を上げてくれます。

また、誰かと食卓を囲むなら、調理の合間に「この野菜、どこで採れたのだろうね」と話したり、「この味を作ってくれた人に感謝」する言葉を添えたりするだけで、日常が少し神聖に感じられます。

感謝が整える、暮らしの豊かさ

豊受大神という神様は、私たちに「物質的な豊かさ」だけでなく、「感謝」「つながり」「心の安心」を取り戻すヒントをくれます。

40代という人生の節目だからこそ、体が求めるもの、心が求めるものを丁寧に扱いたい。
栄養だけでなく、味わい、素材、作る人の思い…それらを“受け取る”力を育てながら、暮らしを整える。

暮らしの中にある小さな恵みを、感謝して迎えることで、日常が少しずつ深まり、心地よくなっていくのではないでしょうか。

タイトルとURLをコピーしました