40代からの「買わない」という選択 ― ものを減らしたら、お金の使い方が変わった

①【暮らしと知恵】

クローゼットを開けて、ため息をついたことはありませんか。服はたくさんあるのに、着るものがない。引き出しには使っていない文房具、キッチンには一度しか使わなかった調理器具。どれも、買ったときは「必要だ」と思ったはずなのに。

きっかけは、旅行カバンでした

私の買い方が変わったのは、旅行カバンからでした。毎日使う財布でも通勤のカバンでもなく、年に数回しか使わないものから、というのが、自分でも不思議です。

以前の私は、旅行カバンを消耗品だと思っていました。安いものを買って、傷んだら買い替える。年に数回しか使わないのだから、それで十分だと考えていたのです。

新しく選んだのは、折りたためる旅行カバンでした。使わないときは小さく畳んで収納でき、それでいて素材はしっかりしている。この2つが決め手でした。以前の私なら、「年に数回しか使わないのに、もったいない」と思ったはずです。

けれど、実際に使ってみて考えが変わりました。畳めるので、大きなカバンがクローゼットを占領しない。それだけで、部屋がすっきりしました。安いカバンは2〜3回の旅行で角がすり切れていましたが、今のカバンは何年経っても形が崩れません。「次の旅行の前に、また買わなきゃ」という手間と出費も、なくなりました。

この経験で、私の中の基準が変わりました。値段ではなく、「これを長く持ちたいか」。それから、財布も通勤のカバンも、職人がつくったものを選ぶようになり、どれも今も使っています。

先にお伝えしておくと、この記事は節約や我慢をすすめるものではありません。買わないことが偉い、という話でもありません。なんとなく買うのをやめると、本当に欲しいものが見えてきて、そこにお金を使えるようになる。それが、40代からのお金の整え方だと思っています。

「安いから買う」をやめた

「50%オフ」の文字を見ると、心が動きます。今買わないと損だと感じるのは、自然なことです。でも冷静に考えると、買わなければ100%オフなのです。

私がやめたことが、3つあります。ひとつは、セールだけを目的にお店に行くこと。「何か安いものはないか」と思って入ると、必ず何かを買ってしまいます。買うものを決めてから行くだけで、無駄が減りました。ふたつ目は、まとめ買いです。「3つで1,000円」につられて、1つでいいのに3つ買い、結局2つは使わないまま、ということが何度もありました。三つ目は、「いつか使うかも」で買うこと。その「いつか」は、たいてい来ません。本当に必要になったときに買えばいい、と思えるようになりました。

値段の見方も変えました。以前は「いくらか」で見ていたのを、今は「何回使うか」で考えます。旅行カバンで比べてみると、こうなります。

以前の安いカバン今のカバン
使えた回数2〜3回の旅行で傷む何年も使っている
買い替え数年ごとに必要不要
収納かさばる畳める

数回で買い替えていたものと、何年も使えるもの。総額で見ると、そこまで大きくは変わりません。むしろ、選び直す手間や、置き場所の悩みがなくなったぶん、得をしたと感じています。

「安物買いの銭失い」という言葉を、私は「お金を損する」という意味だと思っていました。でも、失っていたのはお金だけではありませんでした。買い直す時間、何を買うか考える時間、かさばるものをどこに置くか悩む時間。そういうものまで、失っていたのだと思います。

とはいえ、高価なものが正解という話ではありません。大切なのは、使い続けられるかどうか。年に1回しか使わないものでも、10年使えるなら、それは良い買い物だと思います。

買う前の、3つの問い

衝動買いを防ぐために、買う前に自分に問いかけていることがあります。たった3つですが、これが効きます。

ひとつ目は、「これは、何を解決するのか」。買い物には、本来目的があるはずです。でも、なんとなく欲しいと思っているときは、その目的があいまいです。この服はどの場面で着るのか。この調理器具で何をつくるのか。答えられないなら、今は買わなくていいのかもしれません。

ふたつ目は、「すでに、似たものを持っていないか」。私がいちばん引っかかるのが、これでした。黒いカーディガン、白いTシャツ、ボールペン、保存容器。同じようなものを何度も買っていたことに気づいたのです。買う前に家の中を思い浮かべるだけで、重なりが減ります。

三つ目は、「1週間後も、欲しいと思うか」。衝動買いに、いちばん効く問いです。カートに入れたまま、1週間待ってみる。たいていの場合、1週間後には忘れています。それは、本当は必要なかったということ。反対に、1週間後もまだ欲しいと思ったなら、それは本当に必要なものなのかもしれません。

「迷ったら買う」という言葉もありますが、私は逆だと思っています。本当に必要なものは、迷いません。迷っている時点で、それはなくても困らないものなのです。

減らして、見えてきたもの

物を減らして、いちばん驚いたのは、お金より先に時間が戻ってきたことでした。「あれ、どこに置いたっけ」と探す時間が、驚くほど減りました。服が少ないと、朝の支度も早くなります。物が少ないほど、掃除も楽です。

人は一日に何度も選択をしていて、その一つひとつが少しずつ脳を疲れさせるといわれています。物が少ないと、選ぶ回数そのものが減る。それだけで、夕方の疲れ方が変わったように感じます。

部屋がすっきりすると、不思議と気持ちも落ち着きます。目に入る情報が減るからかもしれませんし、「片づけなきゃ」という無言のプレッシャーが消えるからかもしれません。どちらにしても、物を減らすことは、心を軽くすることでもありました。

節約しようと思っていたわけではありません。それでも、買う回数が減れば、自然と支出は減ります。そして、本当に欲しいものにお金を使えるようになった。これが、いちばん大きな変化です。

「育てる」という買い方

買い方が変わってから、選ぶ基準も変わりました。今の基準は、「これは、育てられるか」です。洗える、磨ける、油を塗れるといった、手をかけるほど良くなっていくもの。壊れても直せるもの。そして、新品のときがいちばん美しいものより、使い込むほど味が出るもの。そういうものを選ぶようになりました。

旅行カバンから始まって、通勤カバン、財布と、気づけば職人がつくった革のものを選ぶようになっていました。革は、手をかけるほど応えてくれます。傷がついても、それが味になる。クリームを塗ると、その日だけ艶が戻る。「買い替える」から「手入れする」へ。この変化が、いちばん大きかったかもしれません。

革の手入れは、思ったより簡単でした

手入れが大変そうだと思って、革製品を避けていた時期もありました。でも、実際にやってみると、驚くほど簡単です。乾いた布でほこりを落とし、クリームを少量なじませて、もう一度乾いた布で軽く拭く。それだけです。頻度も、月に1回くらいで十分です。

この数分のために、専用のクリームをひとつ持っておく。それが、長く使うためのいちばん確実な方法でした。最初の一本は、色がつかない無色のタイプが使いやすいと思います。

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※革の種類によって、合うケア用品は異なります。スエードやヌバックのような起毛素材には、専用のものを選んでください。心配なときは、目立たないところで試してから使ってください。

革のほかにも、手入れしながら使っているものがあります。つげぐしは、ときどき椿油でお手入れをすると、使うほどに髪へのなじみがよくなります。木の器は、使ったら洗ってしっかり乾かし、時々オイルを塗ると、色が深まっていきます。急須は、茶渋を落として注ぎ口を洗う。手をかけるほど、愛着が増していきます。

育てられるものを選ぶようになってから、買い物の感覚も変わりました。消費するのではなく、迎え入れる。そう思うと、選ぶ時間も楽しくなります。そして、大切にしようと思えるので、次の買い物が自然と減っていくのです。

物より先に、固定費を

ここまで物の話をしてきましたが、実は、いちばん効果が大きいのは固定費の見直しです。一度見直せば、その効果が毎月ずっと続くからです。

まず、サブスクリプション。動画配信や音楽、アプリ、雑誌の読み放題など、気づかないうちにいくつも契約していませんか。スマートフォンの設定のサブスクリプションの画面や、クレジットカードの明細を3か月分ほど見返すと、使っていないのに払い続けているものが見つかることがあります。

電気やガスは、自由化によって契約先を選べるようになりました。同じ量を使っていても、契約先によって料金が変わります。手続きは多くの場合オンラインで済み、工事も原則いりません。料金プランは変わることがあるので、必ず最新の情報を確かめてください。

スマートフォンのプランを何年も変えていない、という方も多いと思います。実際に使っているデータ量を確かめて、プランが合っているか見直してみてください。

40代は、保険を見直すタイミングともいわれます。家族の形が変わった、若い頃に入ったまま中身を把握していない、保障が重なっている。そんな場合は、一度確かめてみる価値があります。ただ、保険はその人ごとの事情によるところが大きいので、内容の判断は専門家に相談してください。

固定費の見直しも、削るというより、選び直すことだと思っています。必要なものは、残していい。大切なのは、なんとなく払い続けているものをなくすことです。

それでも、買っていいもの

ここまで「買わない」話をしてきましたが、買うことに罪悪感を持つ必要はありません。むしろ、こういうものには、積極的にお金を使っていいと思っています。

まず、毎日使うもの。枕や寝具、靴、下着などは、毎日使うぶん1回あたりの値段が下がりますし、体への影響も大きいので、投資する価値があります。次に、体を守るもの。歯ブラシや日焼け止め、良い食材のように健康に関わるものは、削らないほうがいいと思います。あとから取り返すほうが、高くつくからです。

時間を生む道具も、別枠だと考えています。食洗機や乾燥機付きの洗濯機、ロボット掃除機。物を減らす話と矛盾するようですが、毎日30分の家事が減るなら、1年でおよそ180時間になります。その時間の価値を考えると、決して高くありません。

旅や学び、人と会うことのような、経験に使うお金もそうです。物は減っても、経験は減りませんし、場所も取りません。40代からは、物より経験に。そう思うようになりました。

そして、好きな香りや美しい器、一杯のお茶のように、自分を整えてくれるもの。実用性だけでは測れないものにも、価値があります。無駄に見えるものが心を支えてくれることもある。それも、忘れずにいたいと思っています。

買わないことで、得たもの

正直に言うと、劇的に貯金が増えたわけではありません。それでも、お金の使い方に納得できるようになりました。何に使ったか分からないお金が、減ったのです。

買わない選択を重ねるうちに、自分が何を大切にしているかが、はっきりしてきました。買い物は、価値観のあらわれです。何を買い、何を買わないか。その積み重ねが、その人の暮らしをつくっていくのだと思います。今、家にあるものを見回すと、なぜそれを選んだのかを説明できるものばかりになりました。それは、とても心地よいことでした。

「買わない」は、目的ではなく手段です。なんとなく買うのをやめれば、本当に欲しいものに、そして大切な人との時間に、お金を使えるようになる。そのための「買わない」なのだと思います。

年に数回しか使わない旅行カバンから、私の買い方は変わりました。使い捨てから、使い続けることへ。それは物との関係が変わったということで、物との関係が変わると、お金との関係も変わっていきます。

全部を一度に変える必要はありません。カートに入れたものを1週間待ってみる。サブスクをひとつ見直してみる。それだけで十分です。ものを減らすことは、暮らしを貧しくすることではなく、本当に大切なものをはっきりさせること。40代からのお金の使い方が、そんな方向へ向かっていけたらと思っています。


※本記事は一般的な情報のご紹介です。保険や金融商品の選択については、専門家にご相談ください。電気・ガスや通信のプランは、内容が変わることがあります。契約の前に、必ず最新の情報と解約の条件をご確認ください。

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