ラタトゥイユが、店の味になった日 ― 世界の伝統的なミックスハーブ6選と、その使い方

②【食】

先日、ラタトゥイユを作りました。なす、ズッキーニ、パプリカ、玉ねぎ、トマト。いつもと同じ材料で、ひとつだけ変えたことがあります。エルブ・ド・プロヴァンスを、ひとふり加えたのです。

これまでハーブなしで作っていたラタトゥイユも、それなりに美味しくできていたつもりでした。けれどハーブを加えた瞬間、まったく違う料理になりました。香りに奥行きが出て、野菜の甘みが立ち上がる。「あ、お店の味に近づいた」と感じたのです。

たったひとふりで、なぜここまで変わるのか。不思議に思って調べてみると、エルブ・ド・プロヴァンスは「プロヴァンス地方のハーブ」という意味だと分かりました。その土地で長く使われ、何百年もかけて「この料理には、この配合」と磨かれてきた組み合わせなのです。

そう思うと、ほかのミックスハーブにも興味が湧いてきました。ブーケガルニ、ザータル、ガラムマサラ。名前は聞いたことがあっても、中身はよく知らない。それぞれの土地で、どんな組み合わせが、どんな理由で生まれたのか。この記事では、世界の伝統的なミックスハーブを6つまとめてみました。

エルブ・ド・プロヴァンス ― 地中海の太陽の香り

フランス語で「Herbes de Provence」。そのまま「プロヴァンスのハーブ」という意味です。南フランスの乾いた大地と強い日差しの下で育つハーブたちの組み合わせが、そのまま名前になりました。

主な構成は、タイム、ローズマリー、オレガノ、セイボリー、マジョラム、バジル。製品によっては、ここにラベンダーが加わります。ラベンダーが入ると独特の華やかさが出て、「ハーブに花の香り?」と最初は戸惑いましたが、トマト料理には驚くほどよく合います。

共通しているのは、どれも乾燥に強いハーブだということです。夏は乾燥し、冬に雨が降る地中海性気候の土地で育つ植物たち。そして、どれも加熱に強く、煮込んでも焼いても香りが飛びにくい。だから、地中海の料理と相性がいいのです。

私の使い方

この記事のきっかけになったラタトゥイユでは、野菜を炒めたあと、煮込む段階でひとふりします。鶏肉のオーブン焼きなら、塩こしょうと一緒にまぶして焼くだけ。じゃがいもはオリーブオイルとハーブで和えてローストに。白身魚のソテーには、仕上げに少しだけ。

使うときに気をつけているのは、入れすぎないことです。乾燥ハーブは少量でもしっかり香るので、2人分なら小さじ半分くらいから試してみてください。物足りなければ、次に少し増やせばいい。そのくらいがちょうどいいと思います。

入れるタイミングも大切です。最初から入れると香りが飛び、最後に入れるとなじみません。煮込みの中盤あたりが、いちばんバランスがいいと感じています。

私が使っているもの

私が使っているのは、フォションのエルブドプロバンスです。S&Bから販売されているので、スーパーで見かけることもあります。14gと小さめなのが、実はうれしいところ。乾燥ハーブは香りが命なので、大きな瓶だと使い切る前に香りが抜けてしまいます。この量なら、ちょうどよく使い切れます。

S&B FAUCHON エルブドプロバンスS&B FAUCHON エルブドプロバンス 14g

※開封後は、直射日光とコンロの熱を避けて保存すると、香りが長持ちします。

フィーヌ・ゼルブ ― 繊細な、生のハーブ

フランス語で「Fines herbes」。「繊細なハーブ」という意味で、名前のとおり、香りがとても繊細な組み合わせです。基本の構成は、パセリ、チャイブ(あさつき)、チャービル、タラゴン(エストラゴン)の4つとされています。

エルブ・ド・プロヴァンスとのいちばんの違いは、生のハーブを使うことです。

エルブ・ド・プロヴァンスフィーヌ・ゼルブ
状態乾燥フレッシュ(生)
加熱強い弱い
入れるタイミング調理中仕上げ
向く料理煮込み、オーブン料理卵料理、ソース

フィーヌ・ゼルブは、加熱すると香りが消えてしまうので、火を止めてから加えるのが基本です。フランスではオムレツが定番で、卵を焼く直前に刻んだハーブを混ぜるだけで、シンプルなオムレツが一気にレストランの味になります。焼き上がった鶏肉のソテーに散らしたり、白身魚のムニエルのバターソースに仕上げで加えたり、刻んでオイルとビネガーに混ぜてドレッシングにしたりもします。

難点は、4種類すべてを生でそろえるのが、日本では少し大変なことです。とくにチャービルとタラゴンは、スーパーではあまり見かけません。パセリとあさつきなら手に入りやすいので、まずはこの2つから。タラゴンの代わりにディルを使う方法もあります(風味は少し違います)。乾燥タイプのフィーヌ・ゼルブも売られているので、本来はフレッシュが基本ですが、手軽に試すなら乾燥からでもいいと思います。

ブーケ・ガルニ ― 煮込みの土台をつくる

フランス語で「Bouquet garni」。「香草の束」という意味です。6つの中で、これだけは性格がまったく違います。混ぜて使うのではなく、束ねて煮込み、最後に取り出すものだからです。

基本は、タイム、ローリエ(月桂樹の葉)、パセリの茎の3つ。地域や料理によっては、セロリの葉やリーク(西洋ねぎ)の緑の部分、ローズマリーが加わることもあります。

束ねる理由は、取り出しやすいからです。煮込み料理では、長い時間をかけて香りを移しますが、葉がばらばらだと、食べるときに口に入って邪魔になります。だから、糸で縛るか、お茶パックに入れるのです。

私は、無漂白のお茶パックに乾燥タイムとローリエを入れて、口を閉じるだけにしています。煮込み終わったら取り出す。これなら、生のハーブがなくても作れます。

無漂白お茶パック無漂白お茶パック 60枚入(日本製・チャック付き袋)

※お茶パックは、ハーブティーを作るときにも使えます。ひと袋あると、台所で何かと重宝します。

ポトフやビーフシチュー、鶏のスープ、豆の煮込み、そして意外なところではカレーにも合います。ブーケ・ガルニは主張しないので、食べてもハーブの味はほとんど感じません。それでも、入れた料理と入れない料理を並べると、はっきり違います。肉の臭みが消え、スープに深みが出る。あるべきものが、ちゃんとある。まさに縁の下の力持ちです。

イタリアンハーブミックス ― トマトと出会うために

南フランスとイタリアは、どちらも地中海沿岸なので、ハーブの顔ぶれは似ています。主な構成は、オレガノ、バジル、ローズマリー、タイム、マジョラム、セージ。エルブ・ド・プロヴァンスとの違いは、オレガノとバジルの割合が高いこと、そしてラベンダーが入らないことです。

なぜオレガノとバジルなのか。答えは、トマトです。イタリア料理の中心にはトマトがあり、オレガノとバジルは、トマトと出会うために生まれたようなハーブです。トマトの酸味をオレガノの力強さが受け止め、バジルの甘い香りが全体をまとめる。この組み合わせが、イタリア料理の骨格をつくっています。

トマトソースを煮込むときにひとふり。ペペロンチーノの仕上げにも。鶏肉やラムのグリル、フォカッチャの生地に練り込んだり、上にふったりしても美味しくいただけます。いちばん手軽で効果が分かりやすいのは、ピザトーストです。食パンにケチャップとチーズをのせて、ハーブをふって焼くだけで、驚くほど「それらしく」なります。

6つの中で、いちばん出番が多いのはこれかもしれません。日本の家庭料理にも、トマトを使った料理は多いですから。「まず1つ試すなら」と聞かれたら、私はこれを挙げます。

マスコット イタリアンハーブミックスマスコット イタリアンハーブミックス 11g

※11gの少量サイズなので、香りが落ちる前に使い切れます。

ザータル ― 酸味が入る、ただひとつのミックス

「Za’atar(ザータル)」は、レバノンやシリア、ヨルダン、パレスチナ、イスラエルなど、中東のレバント地方で日常的に食べられているミックスです。6つの中で、いちばん異色の存在かもしれません。

主な構成は、タイム(またはヒソップ)、オレガノ、マジョラム、白ごま、スマック、塩。ザータルの個性をつくっているのは、スマックという聞き慣れない材料です。ウルシ科の植物の実を乾燥させて粉にしたもので、鮮やかな赤色をしていて、レモンのような酸味があります。中東では、レモンの代わりに使われることもあるほどです。この酸味が入ることで、ザータルはほかのミックスハーブとはまったく違う表情になります。白ごまの香ばしさと食感も加わり、ハーブだけでは出せない厚みがあります。

現地でいちばん一般的なのは、オリーブオイルと混ぜて、ピタパンやバゲットにたっぷりつける食べ方です。シンプルなのに、驚くほど美味しい。プレーンヨーグルトにオリーブオイルとザータルをかけると、「ラバネ」という中東のディップに近い味になります。焼いたズッキーニやなす、かぼちゃに仕上げでふりかけたり、塩と一緒に鶏肉にまぶして焼いたり。朝の目玉焼きにひとふりするだけでも、いつもと印象が変わります。

日本ではまだ珍しく、スーパーではなかなか見かけません。輸入食品店やスパイスの専門店、通販で手に入ります。いつもと違う味を試してみたい方には、いちばんおすすめです。

Frontier Co-op ザータルFrontier Co-op ザータル シーズニング 55g

※ごまが含まれています。ごまアレルギーのある方はご注意ください。

ガラム・マサラ ― 仕上げに香りを重ねる

ガラム・マサラは、厳密にはハーブではなく、スパイスの組み合わせです。「ガラム」は熱い、温める、「マサラ」はスパイスの配合という意味で、「体を温めるスパイスの配合」ということになります。

主な構成は、クミン、コリアンダー、カルダモン、クローブ、シナモン、ブラックペッパー、ナツメグなど。ただし配合は家庭や地域によってまったく違い、インドでは各家庭に「うちのガラムマサラ」があるといわれるほどです。

よく混同されるのが、カレー粉です。

カレー粉ガラム・マサラ
起源イギリスで生まれたインドの伝統
ターメリック入る(黄色のもと)入らないことが多い
辛味入ることが多い控えめ
使うタイミング調理中仕上げ

いちばん大切な違いは、使うタイミングです。ガラム・マサラは香りが命なので、長く加熱すると香りが飛んでしまいます。だから、料理の最後、火を止める直前に加えるのが本来の使い方です。市販のカレールーで作ったカレーでも、火を止める直前に小さじ半分ほど加えるだけで、驚くほど本格的な香りになります。野菜炒めやひき肉料理、スープの仕上げにも使えますし、ヨーグルトと混ぜて肉のマリネにするのもおすすめです。

「なんとなく味が決まらない」というとき、ひとつまみ加えると、味がまとまることがあります。これは私の実感です。ただ、香りが強いので、入れすぎには気をつけてください。

ガラム・マサラはスーパーではあまり見かけないので、いきなりはハードルが高いと感じる方もいるかもしれません。そんなときは、複数のスパイスをブレンドしたカレーパウダーから始めるのもひとつの方法です。カレー粉とガラム・マサラは別物ですが、「スパイスを組み合わせる」感覚は同じように味わえます。

S&B スペシャルカレーパウダーS&B スペシャルカレーパウダー 100g

※業務用の100gサイズです。カレー以外にも、炒め物や下味に幅広く使えます。

使い分けと、選び方

6つを並べてみると、こうなります。

名称地域主な構成使うタイミング向く料理
エルブ・ド・プロヴァンス南フランスタイム、ローズマリー、オレガノ、ラベンダー調理中ラタトゥイユ、オーブン料理
フィーヌ・ゼルブフランスパセリ、チャイブ、チャービル、タラゴン仕上げ卵料理、ソース
ブーケ・ガルニフランスタイム、ローリエ、パセリの茎煮込み全体ポトフ、シチュー
イタリアンハーブイタリアオレガノ、バジル中心調理中トマトソース、ピザ
ザータル中東タイム、ごま、スマック仕上げ・そのままパン、焼き野菜
ガラム・マサラインドクミン、コリアンダー、シナモンなど仕上げカレー、炒め物

この表でいちばん見ていただきたいのは、「使うタイミング」です。エルブ・ド・プロヴァンスやイタリアンハーブのような乾燥ハーブは、加熱に強いので調理中に。フィーヌ・ゼルブのような生のハーブは、加熱で香りが飛ぶので仕上げに。ガラム・マサラやザータルは、香りが命なので火を止めてから。ここを間違えると、せっかくのハーブが活きません。

まず1つ買うなら、私のおすすめは、いちばん出番の多いイタリアンハーブミックスです。次に、オーブン料理や煮込みに使えるエルブ・ド・プロヴァンス。この記事のきっかけになった、思い入れのある一本です。三つ目に、ガラム・マサラ。仕上げにひとつまみ加えるだけで、市販のカレーが格段に美味しくなるので、変化がいちばん分かりやすいと思います。

保存のこと

乾燥ハーブは、香りが命です。直射日光を避け、コンロの近くには置かないこと。熱で劣化が早まります。空気に触れると香りが飛ぶので、しっかり密閉します。大きな瓶より、使い切れる小さいサイズを選ぶほうが、結局は無駄がありません。開封後は6か月から1年が目安です。香りが弱くなったものは、料理ではなくポプリなどに回すという方法もあります。

慣れてきたら、自分で配合してみるのも楽しいものです。タイムとローズマリーとオレガノを合わせるだけでも、十分それらしくなります。市販のミックスを使ってみて「もう少しこの香りが欲しい」と感じたら、単品のハーブを足してみる。そうやって、自分の家の配合が生まれていきます。

ひとふりで、何百年が届く

南フランスの乾いた大地、イタリアのトマト、中東の酸味を愛する食卓、インドの体を温める知恵。6つのミックスハーブは、どれも、それぞれの土地でそれぞれの理由から生まれた組み合わせでした。

私がラタトゥイユで感じた変化は、たぶんそういうことだったのだと思います。何百年もかけて磨かれた配合が、ひとふりで手に入る。それは、とても贅沢なことです。

6種類すべてをそろえる必要はありません。気になったものをひとつ選んで、いつもの料理にひとふり。それだけで、台所の景色が少し変わり、旅をしたような気分になれるかもしれません。

※本記事は一般的な情報のご紹介です。ハーブやスパイスにアレルギーのある方は、原材料をご確認ください。妊娠中・授乳中の方、持病のある方、服薬中の方は、特定のハーブの多量摂取について、医師にご相談ください。とくにラベンダーやセージを含む製品は、妊娠中の多量摂取を避けるほうが安心とされています。

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