ハーブとスパイスの違い ― 部位・歴史・使い方で読み解く、香りの基本

②【食】

スーパーでローズマリーとクミンを手に取ったとき、ふと疑問が湧きました。「あれ? ハーブとスパイスって、どう違うんだろう」。

料理にも、ティータイムにも、香りのセルフケアにも、どちらも欠かせない存在になっています。それなのに、違いを聞かれると答えられない。同じように「香りのある植物」として使われているけれど、その線引きは意外とあいまいです。

気になって調べてみると、暮らしに取り入れるうえで知っておきたい違いがありました。そして、その違いを知ると、選び方も使い方も変わってきます。この記事では、使う部位、歴史、生と乾燥の違い、料理に加えるタイミング、保存の仕方といった角度から、ハーブとスパイスの違いをまとめました。難しい知識はいりません。「なるほど」と思えるだけで、台所が少し楽しくなるような内容になればと思っています。

いちばんの違いは、植物の「部位」

もっとも一般的な区別は、植物のどこを使うかです。

ハーブスパイス
使う部位やわらかい部分硬い部分
具体的には葉、茎、花種子、根、樹皮、果実、つぼみ

ハーブの例でいえば、バジルやミント、ローズマリーは葉を、パセリは葉と茎を、カモミールやラベンダーは花を使います。スパイスなら、シナモンは樹皮、クローブは花のつぼみ、ターメリックは根茎、クミンとナツメグは種子、ブラックペッパーは果実です。

覚え方は、「やわらかいものがハーブ、硬いものがスパイス」。生のままでも食べられそうなものはハーブ、乾燥させて砕いたり挽いたりするものはスパイス。そのくらいの感覚でも、ほとんど間違いはありません。

同じ植物なのに、分かれるもの

いちばん面白いのが、コリアンダーです。同じ植物なのに、使う部分によってハーブにもスパイスにもなります。

部位呼び名分類
葉パクチー(コリアンダーリーフ)ハーブ
種子コリアンダーシードスパイス

さらに驚くのは、葉と種とで、香りがまったく違うことです。葉のパクチーは独特の強い香りで、好き嫌いがはっきり分かれます。エスニック料理には欠かせない存在です。一方、種のコリアンダーシードは、柑橘のような甘く爽やかな香り。パクチーが苦手な方でも、こちらは平気なことが多いようです。カレーの香りの土台をつくっているのも、この種です。

ほかにも、ディルは葉がハーブで種子がディルシード、フェンネルは葉や茎がハーブで種子がフェンネルシードと、同じように使い分けられます。どれもセリ科の植物です。セリ科には葉と種の両方を使うものが多い、と覚えておくと便利です。

国によって、線引きが違う

実は、ハーブとスパイスに明確な定義はありません。部位で分けるのが一般的ですが、絶対的なルールではないのです。

たとえばヨーロッパには、「家庭菜園で育てられるのがハーブ、遠くから運ばれてくるのがスパイス」という、暮らしに根ざした分け方があります。ヨーロッパの気候ではバジルやタイムは庭で育ちますが、シナモンやクローブは熱帯でしか育たないので、輸入するしかなかった。その違いが、そのまま分け方になったのです。

日本語には、ハーブもスパイスも含む「香辛料」という言葉があります。そして、わさびや山椒、しそ、みょうが、ゆずのような日本ならではのものは、「薬味」と呼ばれてきました。分け方は、その土地の文化によって違うのです。

つまり、あくまで便利のための区別にすぎません。「これはハーブ? スパイス?」と迷ったら、どちらでもいいのだと思います。どちらも植物の恵みであることに、変わりはありません。

歴史が、それぞれの性格をつくった

スパイスは、かつて金と同じくらいの値で取引されたこともあるといわれます。古代エジプトではミイラをつくるときに、インドや中東では料理や医療に、中世のヨーロッパでは肉の保存などに使われてきました。

そこまで高価だった理由は、遠くから運ぶしかなかったからです。シナモンはスリランカ、クローブはインドネシア、こしょうはインド。どれも熱帯の産物で、船で何か月もかけて運ぶだけで、価値が跳ね上がりました。大航海時代を動かした理由のひとつがスパイスだったともいわれ、貿易や戦争にまで影響を与えるほどの存在でした。

一方、ハーブはもっと身近なものでした。家庭や修道院の庭で育てられ、民間療法やお茶、香りの生活用品として日常的に使われてきたのです。ヨーロッパの多くの修道院には薬草園があり、病院がまだ少なかった時代、修道士や修道女たちがハーブで人々の手当てをしていたといわれます。

興味深いのは、この違いが、今の使い方にも残っていることです。スパイスは少量で強く働き、料理の味を決める。ハーブは、お茶やアロマ、入浴剤にもなって、暮らしに寄り添う。スパイスでお茶を淹れる人は少なくても、ハーブティーは当たり前にあります。その違いは、それぞれの歴史から来ているのかもしれません。

生と乾燥は、別の調味料

スパイスはほとんどが乾燥したものですが、ハーブは生と乾燥の両方が出回っています。そして、この2つは別の調味料だと考えたほうがいいくらい、性格が違います。

生(フレッシュ)乾燥(ドライ)
香りみずみずしく、繊細凝縮されて、力強い
加熱弱い(香りが飛ぶ)強い(煮込んでも残る)
使うタイミング仕上げ調理中
量の目安多め生の3分の1ほど
保存数日数か月〜1年

意外と大切なのが、量の目安です。レシピに「生のバジル大さじ1」とあったら、乾燥バジルなら小さじ1くらい。乾燥したハーブは水分が抜けて香りが凝縮されているので、同じ量を入れると強すぎることがあります。

生が向くか乾燥が向くかも、ハーブによってはっきり分かれます。バジルやパクチー、ミント、パセリ、チャービルは、乾燥させると香りがほとんど残らないので、生で使うのがおすすめです。反対に、オレガノやタイム、ローズマリー、ローリエ、セージは、乾燥でも十分。オレガノは、むしろ乾燥のほうが香りが立つともいわれます。ディルやタラゴンは、料理によってどちらでも使えます。

加えるタイミングが、味を決める

「せっかくハーブを買ったのに、香りがしない」。そう感じたことはありませんか。原因は、たいてい入れるタイミングです。この記事の中で、いちばん実用的なところかもしれません。

種類加えるタイミング理由
乾燥ハーブ調理の中盤香りが出るまでに時間がかかる
生のハーブ仕上げ、火を止めてから加熱で香りが飛ぶ
ホールスパイス最初(油で炒める)油に香りを移す
パウダースパイス中盤から仕上げ焦げやすい

カレーをつくるとき、クミンシードやマスタードシードを最初に油で炒めます。これは「テンパリング」と呼ばれる方法です。スパイスの香りの成分は油に溶けやすいので、最初に油に移しておくのです。ぱちぱちと弾ける音がしたら、香りが出たサインです。

パウダースパイスは、粉で表面積が大きいぶん、すぐに焦げてしまいます。焦げると苦みが出るので、油で炒めるときはごく短い時間にします。ガラム・マサラは、火を止める直前に加えるのが基本です。

バジルやパクチー、ミントのような生のハーブは、加熱すると香りが消えてしまいます。火を止めてから散らすだけで、まったく違う仕上がりになります。

迷ったときは、香りを立てたいなら最後に、味の土台にしたいなら最初か中盤に。この2つで、だいたい判断できます。

保存の仕方も、違う

ハーブもスパイスも、香りが命です。時間とともに香りは逃げていくので、買ったときがいちばんよく香る、ということは覚えておきたいところです。

生のハーブは、湿らせたキッチンペーパーで包み、袋に入れて冷蔵庫の野菜室へ。数日から1週間が目安です。バジルやパクチーは、コップに水を入れて挿しておくと長持ちします。バジルは冷蔵庫の寒さに弱いので、常温のほうがいいこともあります。刻んで小分けにして冷凍する方法もあり、生のまま使うには向きませんが、加熱する料理なら問題なく使えます。

乾燥ハーブとスパイスは、直射日光を避け、熱を避け、しっかり密閉して保存します。よく使うからとコンロの近くに置いている方は多いのですが、熱で香りが早く失われてしまいます。コンロの横は、いちばん避けたい場所です。

種類保存期間の目安
パウダースパイス開封後6か月〜1年
ホールスパイス1〜2年
乾燥ハーブ6か月〜1年

ホールのスパイスのほうが長持ちするのは、表面積が小さく、香りが逃げにくいからです。大きな瓶は割安に見えますが、使い切る前に香りが抜けてしまうなら、結果的には損になります。よく使うものは大きいサイズ、たまにしか使わないものは小さいサイズ。この使い分けが、いちばん無駄がありません。

健康との関わり

ハーブもスパイスも、古くから薬としても使われてきました。その働きは、今も研究が続いています。

ハーブでいえば、ミントは胃腸の調子を整えるとされ、ローズマリーは抗酸化作用で知られています。カモミールはリラックスや眠りを助けるもの、レモンバームは気持ちを落ち着けるものとして親しまれてきました。スパイスでは、ターメリックに含まれるクルクミンの抗酸化作用、シナモンと血糖値との関わり、ジンジャーの体を温める働き、クローブの抗菌作用などが知られています。

ただ、これらはあくまで「そうした働きが研究されている」という段階で、これを食べれば治る、という話ではありません。日々の食事に少しずつ取り入れる。そのくらいの距離感が、いちばん健やかだと思います。

そして、自然のものだから安全とは限りません。ターメリックは、肝臓の働きに不安がある方は、多く摂ることに注意が必要です。日本でよく出回っているカシアというシナモンには、クマリンという成分が含まれています。ナツメグは、多く摂るとめまいなどの症状が出た報告があります。セージやラベンダーは、妊娠中に多く摂るのは避けたほうが安心とされています。

※料理に使う程度の量であれば、一般的には問題ないとされています。持病のある方、服薬中の方、妊娠中・授乳中の方は、医師にご相談ください。

40代の暮らしに、どう取り入れるか

40代になってから、「今日は、どちらの香りが心地よいか」で選ぶようになりました。

疲れているときや、心を落ち着けたいときは、ハーブ。カモミールやレモンバーム、ラベンダーのやさしい香りが、体をゆるめてくれます。元気を出したいときや、体を温めたいときは、スパイス。ジンジャーやシナモン、クローブは、冬の朝や、冷えが気になる日に頼りになります。食欲がないときは、クミンやコリアンダー、こしょうのような刺激のある香りが、食欲のスイッチになってくれることがあります。

全部をそろえる必要はありません。いつも使っている調味料を、ひとつだけ変えてみる。こしょうを挽きたてにしてみる。乾燥バジルを1本置いてみる。コーヒーにシナモンをひとふりしてみる。それだけで、台所の景色が少し変わります。

厳密でなくていい

「これはハーブ? スパイス?」。その答えを、必ずしも知っている必要はないのだと思います。大切なのは、どう使えば香りが活きるか。そして、今日の自分にはどちらが心地よいか。それだけです。

違いを知ると、食卓にひと工夫が生まれ、セルフケアにひと呼吸が生まれます。これからも、台所やティータイムに登場するあの香りに、「これはハーブかな、スパイスかな」と思いを巡らせながら、自分らしい私時間を深めていけたら素敵ですね。

※本記事は一般的な情報のご紹介です。ハーブやスパイスにアレルギーのある方は、原材料をご確認ください。持病のある方、服薬中の方、妊娠中・授乳中の方は、特定のハーブやスパイスを多く摂ることについて、医師または薬剤師にご相談ください。

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