40代に入ってから、食べるものの選び方が少しずつ変わってきました。若い頃は手軽さや満足感を大事にしていた私も、今は、何をどう食べるかが体と心にどう響くのかを意識するようになりました。そんな中で気になり始めたのが、「ヴィーガン」という考え方です。
きっかけは、ヴィーガン料理のお弁当をいただいたことでした。想像していたより満足感があり、何より、食べ終えたあとの体の軽さに驚いたのです。それまでの私は、ヴィーガンはストイックで制限の多い食生活、というイメージをもっていました。でも実際に食べてみて、その印象が少しずつ変わっていきました。
先にお伝えしておくと、私はヴィーガンになると決めたわけではありません。暮らしを整える中で、いつも極端ではない、ちょうどいい心地よさを探してきました。ヴィーガンについても同じで、まずは知ることから始めたいと思ったのです。この記事は、言葉の意味や歴史、和食とのつながり、実際に試した一日、よくある不安、そして最後にたどり着いた私なりの形までをまとめた、学び直しの記録です。取り入れるかどうかを決める前に、知ること自体に価値がある。そう思いながら綴っていきます。
ヴィーガンとベジタリアンの違い
ヴィーガンとベジタリアンは、どう違うのでしょうか。実は私も、最初はぼんやりとしたイメージしかありませんでした。大まかにいうと、ベジタリアンは肉や魚を食べない人のことで、乳製品や卵は食べる人も多く、範囲には個人差があります。一方、ヴィーガンは、動物由来の食品をすべて避けるスタイルです。肉や魚はもちろん、卵、乳製品、はちみつも口にしません。衣類や化粧品などでも動物由来の素材を選ばない人が多く、暮らし全体で動物から得たものを使わないことを意識しているのが特徴です。
最近は、この2つに限らず、植物性をベースにしながら自分に合った形を選ぶ人が増えています。乳製品はとるラクト・ベジタリアン、卵はとるオボ・ベジタリアン、魚は食べるペスカタリアン、そして、基本は植物性で、ときどき動物性の食品もとり入れるフレキシタリアン。どれも厳密なルールというより、自分の体調や価値観に合わせて選ばれているものです。
ヴィーガンを知れば知るほど、それはただの食の制限ではなく、生き方の視点を含んだものだと感じるようになりました。動物実験をしていない化粧品を選ぶ、環境への負担が少ない素材を選ぶ、食べものの背景にある問題を知ろうとする。完璧を目指すことではなく、知ったうえで選ぶことに価値を置いているのだと思います。入り口は、健康のため、美容のため、地球環境のため、動物への思いやりからと、人それぞれです。
ヴィーガンは、どこから来たのか
「ヴィーガン(Vegan)」という言葉が生まれたのは、1944年のイギリスです。この年、ヴィーガン協会(ヴィーガン・ソサエティ)が設立され、乳製品や卵もとらない菜食の考え方が提唱されました。言葉は、「Vegetarian(ベジタリアン)」の始めと終わりの文字をつないでつくられたといわれています。その後、より倫理的で、環境にもやさしい生き方を求める声とともに、ヨーロッパやアメリカ、そして世界へと広がっていきました。
ただ、それに近い食のスタイルは、もっとずっと昔から暮らしの中にありました。たとえば仏教の精進料理です。動物の命をいただかないという考えのもと、野菜や豆、海藻などで丁寧につくられ、にんにくやねぎなど香りの強い「五葷(ごくん)」も避けることで、心を静めるとされてきました。インドの「アヒンサー(非暴力)」という思想も知られていて、ジャイナ教や仏教、ヒンドゥー教の一部では、生きものを傷つけないことが大切にされ、菜食が長く根づいてきました。ヴィーガン的な考え方は新しいブームではなく、思いやりや静けさを大切にしてきた文化の一部でもあるのです。
今、ヴィーガンが世界で広がっている背景には、いくつかの理由があります。畜産が地球温暖化や水、森林に与える影響が注目され、国際機関なども植物中心の食事が持続可能な未来につながると発信しています。健康や体の軽さを求めて、動物性の食品を減らす人もいます。私自身、40代に入ってから、食べたものがそのまま気分や肌に表れることを、以前より感じるようになりました。そして、動物福祉への関心から、選ばないことを選ぶ人もいます。歴史や背景を知ってみると、ヴィーガンは単なる食の流行ではなく、どう生きるかを問い直す、静かな対話のようにも感じられます。
実は身近だった、和食とのつながり
ヴィーガンは海外のライフスタイルのように感じるかもしれませんが、実は日本の伝統的な食文化にも、その要素がたくさん息づいています。精進料理は、まさに和のヴィーガンともいえる存在です。
和食に欠かせない味噌や醤油、酢、みりんも、基本的には植物性の調味料です。昆布と干し椎茸の出汁で味噌汁をつくれば、動物性を使わなくても深い旨味が出ますし、豆腐や野菜を中心にした煮物や炒め物も、味噌や醤油でしっかり満足感のある一品になります。発酵調味料は、少しの量でも味をしっかり引き出してくれるので、塩分や油を控えたい40代の食事にも助けになります。
不足しがちといわれるたんぱく質も、和食の知恵で補えます。主役は、豆腐、厚揚げ、高野豆腐、納豆、湯葉などの大豆製品です。豆腐のステーキに味噌だれをかけてメインにしたり、高野豆腐と根菜の煮物で定食風にしたり。大豆製品は手軽で日持ちもしやすく、ヴィーガンを意識しすぎずに日常で使いやすいのがうれしいところです。
私は、すべてを植物性に、とは考えすぎず、植物性中心の日を意識して過ごすようになってから、気持ちも体も軽やかになった感覚があります。発酵調味料を基本にして、おかずの主役に豆腐や野菜、海藻を据え、週に何回かは精進風のごはんの日にする。特別な食材や難しいレシピがなくても、私たちの台所には、すでにそのヒントがたくさんありました。
週末1日だけ、プチ・ヴィーガンを試してみた
完全に切り替えるのは難しくても、週末の1日だけなら気軽に始められます。家でゆっくり過ごしながら、ヴィーガンの食事を試してみた日の記録です。
朝は、豆乳でふやかしたオートミールに、冷凍のブルーベリーとデーツをのせ、シナモンをひと振り。甘さ控えめでも十分に満足できました。カフェインのないルイボスティーを添えて、前の日までの疲れが自然とほどけていくような朝でした。
昼は、家で十割そばをゆでて、シンプルにもりそばにしました。つゆは、昆布と干し椎茸でとった出汁に、薄口醤油とみりんで整えた手づくりです。ねぎとわさびを添えて、余計なものを加えず、素材の力だけで味わう時間。そばの香りとのどごしが引き立って、食後の重さもなく、「これがヴィーガン?」と思うほど、和の知恵に支えられた一食でした。
午後、小腹が空いた頃には、植物性の素材でつくられたお菓子と温かいハーブティーを。SNSから少し離れて、窓からの光を浴びながらゆっくり過ごしました。何を食べるかと同じくらい、どう過ごすかも整えるカギなのだと感じました。
夜は、野菜たっぷりの豆乳スープと、高野豆腐と人参、大根の煮物です。出汁は昆布と干し椎茸で、味噌と醤油でまろやかに仕上げました。食後に眠くならない食事がこんなに心地よいのか、と感じるほど、体にすっと染みこむ味わいでした。
たった1日でも、翌朝は肌のざらつきが落ち着き、目覚めが軽く、胃もたれやだるさもありませんでした。派手な変化ではないけれど、自分の体にとって必要な整い方だったのだと思います。ヴィーガンの食事は制限ではなく、体に負担をかけないやさしい選択肢のひとつなのだと感じました。
よくある不安と、私の答え
始めようとすると、栄養は足りるのか、家族にどう説明するのか、続けられるのか、という不安が出てきます。私自身が感じたことをもとに、整理してみます。
たんぱく質は、豆類や大豆製品、穀物、ナッツ、種などの植物性の食材にも含まれています。私がよく食べるのは、煮物や炒め物に使いやすい高野豆腐やおから、厚揚げ、スープやサラダに入れるレンズ豆やひよこ豆、主食になるオートミールや玄米です。いろいろな食材を少しずつ組み合わせることで、無理なくとれるようになりました。
鉄分も、植物性の食品からとることができます。ひじきや小松菜、切り干し大根、レンズ豆などの鉄分の多い食材に、柿やキウイ、ブロッコリー、レモンなどのビタミンCを組み合わせると、吸収されやすくなるとされています。ただし、植物性の食品に含まれる鉄は、動物性の鉄に比べて吸収されにくいという特徴があります。もともと貧血ぎみの方や月経の量が多い方は、健康診断で数値を確かめながら取り入れてください。気になる症状がある場合は、医療機関に相談してください。また、ビタミンB12は植物性の食品からはほとんどとれないので、完全なヴィーガンの食事を続ける場合は、医師や管理栄養士に相談するのがおすすめです。
我が家は、完全なヴィーガンではありません。家族は、肉や魚もふつうに食べています。だからこそ、分ける、合わせる、無理しない、を大切にしています。野菜の煮物などの副菜は共通にして、主菜だけ、家族には焼き魚、私は厚揚げのステーキ、と分ける。炒め物は先に野菜だけでつくって、自分の分を取り分けてから肉を加える。味噌汁は昆布と干し椎茸の出汁にして、みんなで同じものを。全員が同じものを食べなければいけない、という思い込みを手放したら、無理なく共存できるようになりました。
そして、完璧にできないと意味がないのでは、という不安。これは私自身がいちばん強く感じていたものでした。でも今は、完璧じゃなくていいと思っています。週末だけ植物性にする、副菜だけ植物性にしてみる、おやつを動物性のないものにしてみる。そんな小さな一歩でも、体と心はちゃんと応えてくれます。
たどり着いた、ちょうどいい形
ヴィーガンを学び直す中で、全部を完璧に変えなければ、と肩に力が入ることもありました。そんなときに知ったのが、フレキシタリアンという考え方です。「柔軟な菜食」という意味で、ふだんは植物性中心の食事を心がけながら、必要に応じて動物性の食品も取り入れるスタイルです。この考え方に触れたとき、心がふっと軽くなりました。
私が大切にしているのは、選べる自分でいることです。お昼は植物性中心のスープを選び、家族と食べるときは副菜を共通にして主菜だけ調整し、外食では無理せず好きなものを楽しむ。忙しい日や疲れている日は、動物性のものもいただきます。冷えを感じる時期には、スパイスをきかせたスープをつくるなど、季節や体調に合わせて調整しています。そんな少しずつの自分仕様の選択が、毎日の心地よさにつながっています。
学び直してわかったのは、ヴィーガンは制限ではなく、選択肢だということでした。完璧に守る必要はなく、心と体が喜ぶほうを選べばいい。何を食べるかは、どう生きたいかと深くつながっているのだと思います。無理をしない、がんばりすぎない。でも、自分の内側にやさしく問いかけながら、少しずつ整えていく。知って選ぶ楽しさを忘れずに、これからもゆるやかに続けていきたいと思います。
※本記事は個人の体験と一般的な情報のご紹介です。食生活を大きく変える場合、特に持病のある方、妊娠中・授乳中の方、成長期のお子さんは、栄養のバランスについて医師や管理栄養士に相談してください。極端な制限は体調を崩す原因になることもあります。ご自身の体調を最優先に、無理のない範囲で楽しんでください。
※あわせて読みたい:大豆と発酵食品の取り入れ方は四季のキッチンセルフケア完全版、調味料の使い方は調味料「さしすせそ」使い方ガイド、食材の選び方は40代からはじめるオーガニック入門 完全版へ。

